こんちゃー!一級建築士のmachiです🎵
今回は、崖や擁壁のある土地の話です。
先に書いておきます。私の実家は、築26年で建て替えになりました。その建て替えの設計と現場管理をやったのは、私です。
原因は、建物ではありません。土地でした。
実家に何が起きたか
実家は、2m以下の擁壁の上にコンクリートブロックを積み、土を盛って建てられていました。
住みはじめて数年で、家が傾きはじめました。原因はこれです。
建物の荷重で擁壁が滑り、地盤が下がった。
擁壁が崩れたわけではありません。滑ったんです。そして擁壁が前へ動けば、その後ろの地盤は下がります。上に載っている建物は、当然傾きます。
傾きは、こうやって分かりました
実家で出たサインは、この3つです。全部出ました。
- 建具が閉まらない(ドアや引き戸が引っかかる、勝手に動く)
- 床に置いたものが転がる
- 外壁にひびが入る
ひとつだけなら、建具の調整で済むと思ってしまいます。複数が同時に出たら、建物ではなく地盤を疑ってください。
ただし、はっきり書いておきます。これは「もう起きたあと」のサインです。ここで気づいても、できるのは被害を確認することだけでした。
買う前に効くのは、この章のあとに書く書類の確認のほうです。
なぜ、誰も気づけなかったのか
理由は2つあります。どちらも、あとから取り返せないものです。
- 擁壁の高さが2m以下だった → 確認申請が不要 → 構造計算書も検査済証も存在しない
- 建てた建設会社が倒産していた → 聞く相手もいない
「低い擁壁だから安心」ではありません。低い擁壁だから、書類がない。ここが一番の落とし穴です。
建築基準法では、高さが2mを超える擁壁が工作物として確認申請の対象になります(法第88条、同法施行令第138条第1項第五号)。裏を返せば、2m以下は手続きが要らないので、記録が残りません。
そして時間が経つほど、会社はなくなり、関わった人の記憶も失われます。26年は、何も残らないには十分な時間でした。
コンクリートブロックは、土を留めるものではありません
擁壁は本来、鉄筋コンクリート造や石造など、腐食しない材料で造るものです。コンクリートブロックは、原則として擁壁には認められません。
ただし「ごく低いものに限って例外的に認める」という運用があります。どこまでを認めるかは自治体によって違います。数字をあてにせず、その土地の窓口で確認してください。
さらに東京都では、ブロックで造られた土留めは「がけ」と同等に扱われます。ブロックを積んだ時点で、がけの規制がかかってくるということです。
実家は、2m以下の擁壁の上に、さらにブロックを積んでいました。二段構造です。下の擁壁は、上にブロックと盛土と建物が載ることを想定していません。
ここに挙げたのは、専門知識がなくても現地で目で見えるものだけです。ひとつでも当てはまったら、買う前に止めてください。
実家で、いちばん分かりやすかったサイン
ひび割れより先に出たものがあります。隣地とのずれです。
隣の家のブロック積みと、うちの擁壁。最初は位置がそろっていました。それが、だんだんずれてきたんです。
擁壁やブロックが隣地と連続している場所で、通りがそろっているかを見てください。段差ができていたら、どちらかが動いています。
滑りは、ひびではなく「ずれ」として見えます。壁そのものはきれいなのに、隣との線がずれている。これは素人でも気づけますし、気づけば止められます。
そこへ土を盛ると、条件はさらに悪くなります
実家は、ブロックの上に土を盛っていました。
法律も、盛土のほうを厳しく見ています。
盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)の施行令第3条では、許可が必要になる規模がこう決まっています。
| 工事 | 許可が必要になる規模 |
| 盛土 | 高さ1m超の崖を生じるもの |
| 切土 | 高さ2m超の崖を生じるもの |
| 盛土と切土を同時 | 高さ2m超の崖を生じるもの |
| 盛土(崖を生じない) | 高さ2m超 |
| 上記以外 | 面積500㎡超 |
盛土は1m、切土は2m。盛土のほうが半分の高さで規制がかかります。足した土は締まっていないので、沈むし、滑るからです。
この法律は2023年5月26日に施行されました。熱海の土石流を受けて、旧・宅地造成等規制法を改めたものです。つまり、それ以前に造成された土地は、この基準で造られていません。
書類がないと、擁壁は「がけ」になります
ここからが、これから土地を買う人に一番関係するところです。
役所が見ているのは、擁壁そのものではありません。書類です。
実際の運用を見てみます。
- 目黒区:高低差2mを超える既存擁壁は、確認済証と検査済証の有無を確認。両方そろっていて維持管理が良好なら、造り替えずに使える場合がある。2m以下は設計者が安全性と健全性を確認する扱い
- 板橋区:擁壁がRC造・間知擁壁以外で、設計者が安全性を証明できない場合は、造り替えを検討するよう求める
- 町田市:一定の要件を満たす擁壁であっても、安全と判断できないケースがあるとして注意喚起
安全が確認できなければ、擁壁として認めてもらえません。そうなると「がけ」として扱われ、次の章の距離制限がかかります。
「がけ」になると、建てられる位置が変わります
がけの近くに建てるときの制限は、国が全国一律で決めているものではありません。建築基準法第40条が根拠になっています。
地方公共団体は、…条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができる。
建築基準法 第四十条
「条例で」。つまり、自治体ごとに中身が違います。
千葉県の条例では、がけを「水平面に対し30度を超える角度をなす硬岩盤以外の土地で、高さ2メートルを超えるもの」と定義し、こう制限しています。
| 建てる位置 | 起点 | 制限される距離 |
| がけの上 | がけの下端から | 高さの1.5倍 |
| がけの下 | がけの上端から | 高さの2倍 |
起点が違うことに注意してください。がけ上は下端から、がけ下は上端から測ります。そしてがけ下のほうが広く制限されます。崩れてきたものが届く範囲だからです。
ところが、これは千葉県の話です。
同じ高さのがけでも、県が変われば建てられる位置が変わります。対象になるがけの高さを3mとしている県もあります。
ネットで調べた数字は、その土地では通用しません。必ず、その土地を管轄する自治体の窓口で確認してください。
高さ2mのがけなら、2倍で4m、1.5倍でも3mです。4m下がると、駐車場も庭も間取りも、計画が変わります。
建て替えでは、擁壁を直しませんでした
設計を任されたとき、まず考えたのは擁壁の造り替えです。でも現実的ではありませんでした。
両隣の擁壁と、ひと続きになっていたからです。うちの部分だけを切り取って造り直すことができません。
擁壁は、敷地の境界できれいに終わっているとは限りません。隣と連続していれば、自分の家の都合だけでは動かせません。ここは買う前に確認しておきたいところです。
そこで行政の建築指導課に掛け合いました。擁壁を造り替えずに進める方法を、認めてもらうためです。
選んだのは、擁壁に建物の荷重をかけないやり方です。基礎と杭を地中深くまで打ち込みました。擁壁はそのまま残っていますが、もう建物を支えていません。
建て替えてから14年、傾いていません。
ただし、これはうちの土地だから成立した方法です。地盤の状態も擁壁の状態も1件ごとに違うので、同じやり方がどこでも使えるとは言えません。
そして、こういうやり方は設計者が勝手に決められるものではありません。行政と協議して、認めてもらう必要があります。
確かなのは、費用の話です。深い基礎と杭には、お金がかかります。普通の土地なら要らなかった費用です。土地が安かったぶんは、ここで消えます。
これから買う人に言いたいのは、この費用を買う前に見込んでおいてほしいということです。あとから分かっても、土地はもう自分のものです。
買う前に、これだけは確認してください
土地を見に行くとき、擁壁の見た目を気にする人は多いです。でも見るべきは書類のほうです。
- 敷地と隣地に、擁壁や高低差はありますか
- その擁壁の高さは何メートルですか
- 確認済証と検査済証は残っていますか
- 構造計算書はありますか
- 造成された土地なら、開発工事の資料は残っていますか
- その擁壁を造った会社は、いまもありますか
隣地も聞いてください。隣の土地の擁壁でも、自分の敷地に制限がかかります。
そして、その土地を管轄する自治体の建築指導の窓口で、がけの扱いと必要な距離を確認してください。買ったあとでは遅いです。
答えが「分かりません」「古いので残っていません」だったら、その時点で、がけとして扱われる前提で考えてください。造り替えになれば数百万円、距離制限がかかれば建てられる家が変わります。
総額がいくらになるかは住宅建築 総資金計画表ツールで組めます。土地が安く見えても、ここで逆転することがあります。
まとめ
- 擁壁は上に何が載るかまで含めて設計されている。想定を超えれば、倒れなくても滑る
- 高さ2m以下の擁壁は確認申請が不要。つまり書類が存在しない
- コンクリートブロックは原則として擁壁ではない。認められる上限は自治体次第
- 盛土は1m、切土は2mで規制がかかる。盛土のほうが厳しい
- 書類で安全を示せなければ、擁壁は「がけ」として扱われる
- がけの距離制限は自治体の条例。千葉県はがけ上1.5倍・がけ下2倍、2倍で統一の県もある
- 見るのは擁壁ではなく書類。そして隣地も確認する
- 擁壁を直せなくても、深い基礎と杭で荷重を逃がす方法はある。ただし費用はかかる
実家の場合、気づいたときには建設会社がなく、書類もなく、確かめる方法が残っていませんでした。できたのは、傾いた家を建て替えることだけです。
買う前なら、聞くだけで分かります。この記事で伝えたいのは、それだけです。


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